安来節は御存じのように全国の民謡の中でも最も有名ですぐれたものの一つに数えられています。
初代家元渡部お糸さんはじめ数多くの先輩諸氏の功績に依って、今日に残された民族芸能であり、民謡文化の尊い遺産であります。私たち現代に生をうけたものは、之を正しく受け継ぎ後世に伝承すべき重大な使命があり、ただ保存、継承するのみでなく時代に即応した研究と普及発展を図るべき大きな責任がございます。 保存会の指導部にある方々、又各支部の指導に当られる皆さんは、安来節の最高上位資格者の地位にあります。各人自らが常に自己の修養を怠らず、信義を重んじ道徳を失わず会員の皆さんから信頼される人、尊敬される人になるよう努力すべきであると思います。 安来節保存会は、近年目ざましく拡大発展致しました。会員の増大に従い、いろいろの問題も起きて来ます。指導のみでなく運営その他諸般の最高責任者である皆さんは、会員相互の親睦を図り何ごとに際しても和の心を以ってことを処することが肝要であると思います。皆が面白く楽しく安来節をやれるよう指導の方々の一層の御努力をお願い致します。
一、初心者、指導
指導者は誠意と愛情をもって教える。
指導を受ける者は恩を忘れず感謝の念を失わないこと。
之を守らなければ秩序の乱れの元となり、円満な発展はのぞめない。
初歩の方の指導に於いて最も大切なことは、基本が第一で基本の徹底を原則と考えることである。将来の上手、下手は之に依って決まると言って過言でない。
そして何れの部分でも先ず拍子を覚えることが第一歩である。
唄の部分に於いても先ず素唄の唄い方、即ちリズムから覚えて行く、中には素唄も出来ないのに字余りをやろうとする人がある。素唄が出来なければ決して唄は上手になれない。
絃の部に於いても同じで基本の出来ないのに下のかんの難しい手を弾く人がいる。
先ず基本を覚え唄に合せることから覚えることである。中には三味線をやり乍ら本調子が何のことかわからない人もいる。
鼓、鰌すくいも先ず歩くリズムから覚えることである。
何れの部門も拍子即ちリズムが第一です。
みなさん愉快に楽しく、仲良く安来節を勉強しましょう。
| ◎ 安来節の指導要綱 |
一、唄 の 部
| 1. | 二十六文字の歌詞を素唄という。 |
| 2. | 二十六文字以上の歌詞で安来節の三味線にあうものを字余りという。 |
| 3. | 素唄の歌詞の七・七・七・五を三節に分け一節を一息づつに唄うを基本とし、各人の声量並びに歌詞の表現の仕方によって適宜切って唄うも可とする。 |
| 4. | 唄は拍子に合うことを第一とし、節廻し・唄いこなしの技量(節調)を高めるよう指導すること。 |
| 5. | 姿勢は正座し胸を張り、丹田に力を入れ腹から声を出すよう姿勢を正して唄う。この際、手は両膝の上に置くか軽くにぎる。 立姿の場合はこれに準ずる。 |
二、絃 の 部
| 1. | 三味線の整備 | |
| ○イ | 駒の置き場所は胴の内側から約指二本の間隔とする。 | |
| ○ロ | 糸は正規の糸巻きに巻くこと。上部より一・二・三の順序。 | |
| ○ハ | 調子は正確を期すること。 | |
| 2. | 姿 勢 | |
| ○イ | 三味線の胴は中央よりやや上を膝の中間に少し上向におく。 | |
| ○ロ | 棹は天神の上部を耳の高さと平行にかまえること。 | |
| ○ハ | 撥は正規の型にもち撥先より二糎、三糎後方に親指を置く。 | |
| ○ニ | 撥の手は手首より約十糎、上部の中央よりやや下方におく。 | |
| ○ホ | 左手は手首を特にまげて三味線をかまえること。 | |
| ○ヘ | 弾いた場合に特別な時以外、ほとんど小指を駒の位置に当てること。 |
三、鼓 の 部
| 1. | 姿 勢 | |
| 左膝を立てかかとをあげ右膝をついて足首をたて、かかとの上に尻を置く。上体は概ねまっすぐに保つ。 | ||
| 2. | 鼓の持ち方 | |
| ○イ | 大鼓はできるだけ綱を強く締め、高音の出るようにする。小鼓は巻綱をゆるくまき左手の操作によって強弱の音を出す。 | |
| ○ロ | 大鼓を左膝の上に置き、左膝でおさえるように支える。 | |
| ○ハ | 小鼓は左手に持ち右肩の全部に軽く当てる。左手をしらべ(従綱)の一と二の間より入れ一のしらべの間で巻綱の上に親指をおき、他の四本の指を三と四の間に入れて軽く巻綱(化粧綱)をにぎる。 | |
| 3. | 基 本 | |
| タッポン タッポンポン タッポン タップ タップ タップタッポン タッポンポン |
四、鰌すくいの部
| 1. | 踊りの諸動作が唄及び伴奏のリズムにあうこと。 | |
| 2. | 基 本 | |
| ○イ | 安来節素唄一曲の中に一回の踊りが概ね入ること。 一節にてザルを下げ鰌を追い寄せザルの中に入れる。 二節にてザルの中の泥水をゆすり出す。 三節にてザルの中のゴミを捨て腰籠の中へ鰌を入れる。 | |
| ○ロ | 間奏の間は各人の特徴を生かし鰌を逃がしてとる動作、足に蛭の吸いついた動作等を入れる。 | |
| 3. | 着 衣 | |
| ○イ | 野良着姿は素朴で清潔な物を用いる。 手拭いでほおかむりをし腰籠をつけザルを持つ。 | |
| ○ロ | 顔のつくりは、鼻に一文銭をつける。 | |
| 4. | 注意事項 | |
| ○イ | こと更に破れたり、汚れた衣服を用いざること。 | |
| ○ロ | 顔に極端なつくりをしない。 | |
| ○ハ | 舞台で小便をする等の恰好をしない等、踊りの所作・服装等見る人が嫌悪の感を抱かないように考慮すること。 | |
| ○ニ | 男踊りは汚れた鰌を取る姿をきれいに表現し、写実的でユーモアがあり、安来節のリズムにあいまとまりが良くその所作等の技量を具備すること。 | |
| 5. | そ の 他 | |
| ○イ | 演技中特に見苦しい態度は慎むこと。 | |
| ○ロ | 相互間の礼儀を重んずること。 | |
五、少 年 部
少年の純真さを失わず素直さの中に将来性を考慮し、各人の成長に順応した指導をする。
| 1. | 唄 の 部・・ | 首標の方針に基づき余りに抑揚の多い大人ずれのしない唄い方を指導し、歌詞についても少年に該当する内容のものを唄わせる。 |
| 2. | 絃 の 部・・ | 楽器の持ち方・支え方等各人の身体に合うよう融通性を持たせる。 |
| 3. | 踊 の 部・・ | 唄の部の場合と同じく童心を失わず、子供らしさの中にユーモアのにじむよう考え指導する。 |
| ★指導要綱「補足」〜 指導部 〜 |
特に初心者の指導にあたって
先ず心得るべきことは、誠心を以って指導に当ること。指導を受ける者は誠意を以って之に応えることで、この間師弟のあいだに自ずと生ずる道義を重んずることで、之が第一条件であり安来節の品位を高める所以であると思う。
●唄の部
最初は手拍子により間を取りながら一節づゝ節を教えて行く。同時に口の開け方、発声の方法、本人の声の高さなど考え、追々に三味線を入れて、素唄の基本から覚えさせる上位に上るに従い字余り、小節の入れ方等の唄い方に進むようにする。
●絃の部
三味線の各部の名称、整備、持ち方「ひざ」への乗せ方、角度、撥の持ち方等から細かく教えて行く。
昔は「金比羅船々」とか「この子良い子だ」とか、唄のメロディーと一緒に弾けるものから教えられたものだが、現在は唄から教えることが多いようである。最初は帰ってから自分で練習をしようにも調子が出来なくて困るものだが、本調子の場合、先ず第一に一の糸の高さをきめ、次に一の四の高さに二の音を合せる、次に二の六の音階に三の高さを合せると凡そ、本調子の音階が出来る、次に一の音にサワリ(余いん)をつけ、二、三とビーンとサワリの出るように調整する。
三味線の音を覚えるのには先ず口三味線を覚えることで、昔は農業も鍬を使うことが多かったため、田圃に出ても休みの時間には鍬の柄を三味線の棹の代用に一生懸命しごいたものだ。
●鼓の部
鼓の場合も先ず整備からで大鼓、小鼓のしらべの掛け方、締め方、そして打ち方に進んで行く、この場合も基本から教えて行く、間合が出来るに従い唄、三味線に合せることを教える。鼓では半間に入ることが一番むずかしいのでこの間が出来ないと、三味線にも唄にも邪魔になる。
●鰌すくいの部
鰌すくいを踊る者は先ず鰌の特質を知ることで、之を知らないと鰌すくいの本当の味が出ない。
唄に「前の小川に鰌獲りに」とあるが歌詞は如何にもサラサラ流れている川のように思えるが、鰌は決してサラサラ流れるキレイな川にはいない。小川と云っても田圃のへりの用水路になる。雑草の生えたドブのある小川である。こんな川だからザルを地につけて押して追うわけに行かない。下をはなして足で踏んで行くこと、中にはザルを身体の横に持ってスッと追う者もいるが、スッとザルで追うような川には鰌もいないし、万一鰌がいてもとれもしない。又、手で鰌をにぎるとき、足の裏でとる時など鰌は手の中にしっかりにぎって仕舞わないと逃げる、然もドロの中でないととれない。
鰌の性質を考え、すべての所作がリズムに合うよう教えて行くことが大切である。